ネコを飼う人も、そうでない人も、ネコという動物のことは知っています。でも、多くの人が知っていても、よく知らない動物がネコなのです。 私は、ネコを専門に診察する獣医師となって十数年たちましたが、知っているようで、知らないことの多いネコという隣人に深い興味と愛情を持ってきました。夏目漱石の「吾輩は猫である」を代表に文学的にネコの行動は、語られることが多かったのですが、ネコを科学的に分析する役目をになう人が少なかったため、ネコの行動はたびたび誤解されることがありました。たとえば、ネコが草を食べるという行為について不思議であると考える人と、それはあたり前だと考える人がいます。私は前者で、その行為のわけを心からネコに聞きたいと思っています。ネコ草という言葉まであるように、ネコは先の細い単葉の草を食べることがあります。市販のネコ草は麦の芽です。「ネコだってたまには草を食べて人間と同じようにビタミンを補給するのだろう」多くの人はそう考えます。また胃の中にある毛玉を出すために、草を食べると考える人もいるでしょう。しかしネコは、人間と違ってビタミンCを食事から摂らなくても、腸内で微生物が生産してくれるため、不足することはありません。ではなぜか?ビタミンB12(葉酸)が不足すると草を食べるのでは、と考えた科学者がいましたが、その事も証明できませんでした。なにしろ植物を食べても、ネコにはそれを消化してくれる微生物が腸の中にいないため栄養的にまるで意味がないのです。現在、ネコに注目する科学者は、ネコが草を食べる(英語ではEATとはいわずにCHEW-噛むといいますが)理由は、嗜好ではないかと考えています。草のない環境ではビニールを盛んに噛みたがるネコが多くいることが分かっています。人間がガムをかむように嗜好を持つなんて、不思議な発見です。
研究員南部和也獣医師が共同通信より配信された「猫の達人」より抜粋された記事です。