ネコを飼っている人には、自分のネコが毛玉を吐いた経験をお持ちの人もいるかも知れません。しかしまったく毛玉を吐かないネコもたくさんいます。いや、むしろ毛玉を吐かないネコの方が大半なのです。自分のネコが、当たり前のように、そして頻繁に毛玉を吐く人にとっては、ネコが毛玉を吐かないなんて信じられないことかも知れません。むしろ「吐かないなんて、どこか具合が悪いんじゃないかしら」と思われることでしょう。そもそも、ネコに限らず、体中が毛でおおわれている動物は、人間や、イルカの類をのぞけばほとんどがそうです。そんな動物たちがあたりまえのように毛玉を吐くことはありません。もっとも身近な動物として犬だって毛でおおわれていますが、毛玉は吐きません。「犬はネコのように自分の体をなめないから胃の中に毛玉ができないのだ」そう考える人はいることでしょう。グルーミングをよくする動物であるネコに見られる現象であると。確かにネコは、グルーミングをよくします。体中をなめます。頭のてっぺんだって、手をなめて頭をこすり、また手をなめて頭をこすりきれいにします。ネコは、おしゃればかりしている、ちょっと怠け者というイメージが昔話からも伝わる由縁です。しかしネコの胃は人間同様一つで、胃の中に入った毛は、消化こそされませんが、食べ物と一緒に腸に移り、最後には便となり排泄されるのです。ですから、胃から毛を吐くという行為は、正常なネコの行動と結論づけることはできず、人間と同様に嘔吐というどこか病的な行動であると考えるのです。ネコの嘔吐は、最も一般的に見られる病態ですが、その原因は多様なため特定するには血液検査やレントゲン撮影など少々手間がかかります。慢性の嘔吐は炎症性胃腸炎や喘息の咳による可能性もあるのです。特に喘息は朝方セキが出ることが多く空腹時でもあるため毛玉だけが吐き出されるのです。
研究員南部和也獣医師が共同通信より配信された「猫の達人」より抜粋された記事です。